「番組制作にも生成AIを活用」|関西テレビ放送、AIアシスタント『Lightblue Assistant』の全社導入を開始
〜社内データ参照機能と独自のアシスタント構築機能で、全社的な業務効率化へ〜 東京大学発、最先端アルゴリズムの現場実装に取り組むAI...
放送業界はいま、大きな転換点を迎えています。デジタル化の波が押し寄せる中、特に制作現場とバックオフィスが混在する放送局では、効率的なDX推進が課題となっています。60年以上の歴史を持つ関西テレビ放送は、全社的な生成AI活用に向けて、独自の取り組みを進めています。
今回は、同社のDX戦略部で生成AI導入を推進する栗山氏に、Lightblue Assistantの導入背景から具体的な活用事例まで、詳しく伺いました。
1958年の開局以来、関西の放送文化を支えてきた関西テレビ放送。その長い歴史は、豊かな文化を育む一方で、デジタル化における特有の課題も生み出していました。
「60年の歴史の中で、ワークフローが各部署で細分化されてきました。カメラマンの職場は職人制でOJTが中心です。一方で、バックヤードはホストコンピューター時代から続く電算室が情報システムの始まりでした。放送本線系のシステムへの投資は莫大ですが、バックヤードのIT化への投資は桁違いに少ない状況が続いています」(栗山氏)
2020年、同社は放送技術局をDX推進局へと改編。この組織改革を機に、全社的なIT活用の推進を本格的に開始しました。最初の取り組みとして、社内の印刷コストの調査を実施。会議資料や台本の印刷で年間数千万円のコストが発生していることが判明したのです。
「当社はCTOがいて一気通貫で指令を出すような会社ではなく、ボトムアップ型です。現場社員が番組制作に深く関わっているため、トップダウンで一気に何かを進めるのは難しい面があります。外部の様々な企業の講習会に参加し、他業界の情報収集を積極的に行った結果、社員一人一人がITスキルを上げていく方が、長期的には効果が高いという確信を得ました」(栗山氏)
同社のDX推進局は、業務改革のための「4つの武器」として、ノーコードツール、Dropbox、RPA、そして生成AIを選定。特に生成AIツールの選定では、安価で教育時間が短く、全社展開がしやすいことを重視しました。
「最初は他の生成AIツールも検討しましたが、現場からの評価は芳しくありませんでした。特に問題だったのは、質問の文脈を理解し続けることができず、毎回同じ説明をプロンプトで繰り返す必要があった点です。Lightblue Assistantは、マイアシスタント機能により、わずか2行程度のプロンプトから本格的な業務用プロンプトを生成できます。プロンプトエンジニアリングのスキルがなくても、すぐに効果を実感できる点が決め手となりました」(栗山氏)
特筆すべきは、各部署から選出された15名のIT担当者による「アンバサダー方式」の採用です。8月には各部局にアンバサダーを配置し、まずは各担当者にアカウントを付与して実地検証を開始。例えば人事部では、栗山氏が人事部の担当部長に30分程度のレクチャーを行っただけで、すぐにアシスタントを使いこなせるようになったといいます。その後、各アンバサダーが部局のメンバーに直接指導する形を取ることで、実体験に基づいた効果的な教育が可能に。ユーザーの理解も深まり、活用の輪が自然と広がっていく手応えを感じているといいます。
「全社セミナーでは参加者が限られてしまう課題に対し、部署ごとの担当者を通じた展開を進めることで、より効果的な浸透を図っています。」(栗山氏)
導入から数ヶ月が経過し、各部署での活用事例が着実に増加しています。人事部では社内規定や休暇申請の対応に、報道部では原稿の分析や取材メモの整理に、制作部門では企画書の作成補助として、それぞれ独自のマイアシスタントを開発・活用しています。
「3段階での展開を計画しています。レベル1は全社員の基本的な活用、レベル2は各部署特化型のマイアシスタント開発、レベル3で創出時間の有効活用です。1-2月頃には効果測定も実施する予定です。最終的には、労働人口が減少していく中で、AIの活用を通じて番組のクオリティを向上させることを目指しています」(栗山氏)
新社長が掲げる3つの経営方針の1つにもAI活用が含まれており、経営層からの強い後押しも追い風となっています。「まずは業務改善から、そして最終的には番組制作の質的向上へ」という段階的なアプローチは、放送業界全体のDX推進のモデルケースとなりそうです。
関西テレビ放送の取り組みは、放送業界における生成AI活用の新たな可能性を示しています。特に、トップダウンとボトムアップのバランスを取りながら、現場の実情に合わせた展開を進めている点は、他社にとっても大きな示唆となるでしょう。
IT担当者を介した「アンバサダー方式」の採用や、段階的な展開計画など、具体的な施策も明確です。今後は業務効率化に留まらず、番組制作の質的向上にも寄与することが期待されます。放送業界のDXを加速させる取り組みとして、引き続き注目が集まりそうです。