AIでコンクリートのひび割れを診断する。大林組が取り組む、画像解析にむけた教師データ収集システムの開発。

株式会社大林組は1892年創業の日本を代表する総合建設会社です。

建築設計の初期段階の作業をAI技術を用いて効率化する「AiCorb®」を米スタートアップと開発・提供するなど、最先端技術への活用も積極的に取り組まれています。

このたびLightblueでは、より一層AIを活用していくことを見据えた「教師データ収集システム」の開発をご支援させていただきました。

システム導入に至った背景やプロジェクトの現状、今後のビジョンについて生産技術本部の林様、野島様、松本様にお話をお伺いしました。

コンクリートのひび割れ画像分析に焦点を当てた「教師データ収集システム」

今回開発した 「教師データ収集システム」について教えてください。

林さま:建設業界では働き方改革の一環として、AIなどの技術を利用した生産性の向上と職場環境の改善が求められています。ただ、そこでAIの活用を進めようとすると、教師データの収集とアノテーション(※1)が大きな課題となることがあります。

今回は特に「コンクリートのひび割れ画像分析」に注目し、教師データの収集作業の効率化を目指したシステムを開発しました。今後はこのシステムを用いて収集された画像データを基に、ひび割れ判定AIの構築を進めていく予定です。

(※1) アノテーションとは、テキスト、音声、画像、動画などのデータにタグやメタデータを付加する作業であり、AIが学習するための意味付けを行うプロセスのことです。

最初のアイディアはどのようなものだったのでしょうか?

林さま:​​​​元々、私が遊んだことのあるアキネーターというゲーム(※2)に着想を得て、この仕組みを使えばコンクリートのひび割れを診断できるアプリを作ることができるかも?というアイディアが浮かびました。

コンクリートのひび割れ診断の問題は、弊社の全国の現場で生じており、ひび割れが発生するたびに、技術部門が都度対応する状況がありました。また、技術部門は他の業務も抱えており今後の担い手不足や生産性向上を考えると、このコンクリートのひび割れ診断アプリは、現場と技術部門双方にニーズがあるのでは、と考えました。

(※2) アキネーターとは、質問への5段階の回答例を元に、実在または架空の人物・キャラクターを絞込み推測しながら特定するプログラムエンジン及びそのプログラムを用いたゲーム

社内(部門内)での反響はいかがでしたか?

林さま:このアイデアを上司に提案すると、積極的に形にするよう勧められましたが、アプリ開発の経験もなかったため、開発の進め方の具体的なイメージが持てませんでした。ですが、1人ではなく若手のチームとして調査を進める中でアキネーターに使用されているベイズ推定の技術は、既に多くの他業界でも活用事例があることも分かり、これは行けそうだ、ということで開発に取り組むパートナー企業を探し始めました。

Lightblueをパートナーとして選定した理由はAIを課題解決に繋げる「野心」

パートナー選定を行われるうえで重視されたポイントがあればお聞かせください。

林さま:今回はまず「コンクリートのひび割れ」に焦点を当てることにしたのですが、将来的に別の分野の診断にも展開していくことを見据えています。そこで、ただ単にアプリを一度きちんと作り上げた後に「これで終わり」とするのではなく、継続的に改善していけるようなシステムを目指して柔軟に対応できるパートナーが必要だと考えていました。

そのなかでLightblueを選定いただいた理由はございますか?

松本さま:Lightblueさんが非常に野心的だった点も決め手の一つです。システムの開発会社は、決まった仕様に応じて作って納品して終わり、という紋切り型というケースも多いですが、Lightblueさんからは「大林組と共創して良いものを作りたい」という野心が感じられました。具体的なプロジェクトの進め方についても、私たちがお願いしていることだけでなく、Lightblueさんから主体的に提案をしてもらえた点が非常によかったです。

野島さま:最初に依頼したのはひび割れを診断するためのシステムだったのですが、Lightblueさんは「収集された教師データ」を使ったAI生成とその活用方法、という将来像まで常に見据える姿勢をお持ちだったことが非常に心強かったです。その姿勢に刺激を受ける中で、林の当初の発想・目的であった「ひび割れを診断する」から、より発展性のある「教師データの収集」の方に主目的がシフトしていきました。

AIを用いて収集した教師データをさらなる価値に。

「教師データ収集システム」開発プロジェクトの現状についてお聞かせください。

野島さま:できあがった「教師データ収集システム」はデジタル部門にも触ってもらい、「すぐに試行に移せるもの」と判断してもらえているので、最初の成果としては満足しています。

ここから先はまずはトライアルとして80名ほどの若手メンバーに使ってもらい、意見を募集して次のステップを考えていく予定です。

一度トライアルを設けている理由はこの先の「コンクリートひび割れ検知」を見据えた際に、どれくらいの人が実際に使ってくれるのかであったりそこで発生するシステム負荷はどの程度なのかを確認したいと考えたからです。

このようにトライアルステップを設定し徐々に利用者を拡大していく進め方についてもLightblueさんから提案いただいたものですが、実は弊社としては珍しい進め方です。本プロジェクトが成功すれば、アプリ/システム系プロジェクト全般に対して、良い先行事例・モデルケースとなりうるので、そういった意味でも価値のある取り組みだと考えています。

「教師データ収集システム」のトライアルユーザーに若手メンバーを選定した理由はありますか?

野島さま:本システムの利用ユーザーを意識して選定しました。また、経験値のあるベテランメンバーではなく、あえて若手メンバーに絞ることであるべきUIなども検討しやすいのではないかと考えました。

今後のプロジェクトの想定を教えてください。

林さま:現状は、コンクリートのひび割れ写真を教師データとして収集するシステムができあがりましたが、AIによる診断というところまでは至っていません。トライアルの結果も含めて、次のステップでは生産性の向上を目的として、蓄積されたデータをもとにAIが診断してくれるようなシステムを目指していきます。

さらに、蓄積されたデータから、特定の建設条件(構造物の種類やエリア、工事時期など)を指定すると、AIがひび割れを予測・注意喚起してくれるような仕組みにもしていきたいです。

松本さま:また、今回はコンクリートのひび割れに限定したシステムですが、診断が必要な分野はほかにも地盤や鉄筋など色々あるので、コンクリート以外の素材の不具合も診断や予測ができるような展開の仕方も考えていきたいです。