「現場の危険を未然に防ぐ」。AIを活用した清水建設の安全管理システム。
清水建設株式会社は、1804年(文化元年)に越中富山の大工であった初代清水喜助が江戸の神田鍛冶町で創業した総合建設会社です。
オフィス、工場、学校、病院など、多岐にわたる建物の企画提案、設計、施工、運営・維持管理を行う「建築事業」や、トンネル、橋梁、ダムや都市土木、エネルギー施設など、土木構造物の設計、施工、リニューアルを行う「土木事業」を展開されています。
今回は主に「土木事業」においてAI活用に至った背景やプロジェクトの現状について、プロジェクトを中心になって進められている大山様と小島様にお話をお伺いしました。
2024年3月に清水建設さまに登壇いただき、建設業におけるAI活用の必要性と取り組み事例についてウェビナーを開催しました!建設業界において2024年問題への対応も見据えて現場でのAI活用が求められているなか、現場作業の自動化から安全管理まで、清水建設さまがAIを用いていかにして企業変革に取り組んでいくのかを探求します。
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全社横断でのAI活用を。各事業部を巻き込んだプロジェクトの発足。
清水建設でのAIプロジェクトがはじまったきっかけについて教えてください。
大山さま:2018年頃に経営幹部からAI活用の全社的な推進を指示されたことがきっかけです。
私は約30年間、研究開発業務を務めた後、全社の技術開発マネジメントを担当するようになりました。AIの活用や人材の育成をミッションとする新しい組織が立ち上がり、そのリーダーを担うことになりました。
プロジェクトをどのように進められたのですか?
大山さま:新組織では3つの方針を立てました。1つめは、社内で現在・未来においてAIをどのように使えるのかニーズをまとめること、2つめは、AI技術の発展を見極め最新技術を導入すること、3つめは、AIが使える人材を育成・採用することでした。清水建設には様々な部門、部署がありますが、単に関係者から話を聞くだけではなく、他部門にもAIの担当者を置いてもらい、具体的で実効性の高い課題の設定に努めてきました。
そのなかで土木技術本部が本格的に関わることになったきっかけは何だったのですか?
小島さま:全社戦略のなかでAIが重視されはじめたこの時期に私はイノベーションを推進する部門のグループ長になりました。土木の現場においてもAIは非常に有効なのではないかという話が部門内で始まり、プロジェクトチームに相談に行ったのがきっかけです。
紆余曲折あったAIプロジェクトのPoC。
なぜ建設現場でのAI活用に興味を持たれたのですか?
小島さま:土木工事の現場においてテーマになっていたのが「労働災害をいかに防ぐか」です。特に重機との接触災害は1回起きると重篤で亡くなったり生涯働けないほどの事故になります。これまでも様々なICT技術を活用しながら、労働災害、特に重篤災害をゼロにしようというプロジェクトが走っていました。そこでAIを用いて危険予知(安全管理)につなげることができないか考えたのです。
「現場での危険予知」AIプロジェクトはどのように進められましたか?
小島さま:はじめに取り組んだのが建設現場用のステレオカメラを重機に取り付けて人を検知する仕組みづくりです。代理店を通じて海外製のカメラを仕入れてどうすれば精度を高めることができるかPoCを通じて検証しましたが、なかなかうまくいきませんでした。
なぜ当初のPoCではうまくいかなかったのですか?
小島さま:実際に進めていくなかで回答精度が上がっていかないという現実に直面しました。精度を高めるために「こういう風にはできないか」といった相談も代理店を通じてだとできなかったんです。
大山さま:例えばトンネルの環境って非常に悪いんですね。粉塵は舞っているし振動も大きい。それから照明もあたるからカメラがハレーションを起こしてしまったりもする。そういう予期せぬ課題がプロジェクトを進める中でどんどん出てきました。
PoCを通じてどのようにプロジェクトを軌道修正をされたのですか?
大山さま:全ての環境で要件を満たすことは現実的に難しく、解決に時間がかかると判断し、まずはトンネルでの利用を前提にするのではなくもう少し一般的な環境での利用を前提に組み立て直しました。
小島さま:そうやってスコープを明確にしていくと実用化まで進めていけそうな感触を得ることができました。そこからようやく本格的に動き出すことができたので必要なプロセスではありましたが結構遠回りをしてしまったと感じています。
いざ「AI安全管理システム」の実用化へ。Lightblueをパートナーに選んだ理由。
本格的な実用化に向けて意識されたポイントはありますか?
小島さま:基本的には映像処理ができるカメラにおいてハイエンドのものは世の中にはたくさんあるんですが、建設現場の中で普及させようという軸があるなかでは廉価版というか、コストを抑えつつハンドリングが良いものを用意する必要があります。AIの技術的な観点では、画像処理が可能な領域だったり、サイクルタイムと言って仕事のサイクルを自動抽出できるか。そしてそれをいかに高速処理で対応できるかが重要なポイントになっています。
【参考】AIにて実装したアルゴリズムの一例
①画像解析AIによる骨格推定
・人の骨格を、右側(赤線)と左側(青線)を区別して認識するため、さまざまな姿勢を推定
・×印は足元の推定位置。常に安全側の評価(実際よりも重機に近い評価)となるように算定
②画像解析AIによる顔の向きの推定
・骨格推定技術により、目・鼻・耳の位置関係から顔の向きを判定し、重機を視認しているかを確認
・重機の視認状況に応じて、注意アラート(右、黄枠)または警告アラート(左、赤枠)をオペレータに通知
今回、実用化のパートナーとしてLightblueをご選定いただいた理由を教えてください。
大山さま:大きく2点あります。1点目は「高い技術力」です。非常に高いレベルの実装力を持っているということに加えてそのスピード感も素晴らしいと感じました。他社では自分たちの技術スタックの範囲内で開発を進められるケースが多かったのですが、Lightblueさんの場合、プロジェクトのなかで壁に当たった際にも最新の技術を調査をして、最適な形でアルゴリズムの中に実装してくれる安心感がありました。
2点目は「課題解決に向けた意欲」です。絶対に解決するぞ、という覚悟というかやる気が感じられました。実際の建設現場を見ることなく、単にデータだけください、と言うような会社さんも多く、これまで苦い経験もしてきましたが、Lightblueさんはエンジニアが率先して現場に足を運ぶ。自分たちの仲間として会話ができる関係性が築けそうだと感じました。
「AI安全管理システム」の今後の展開。清水建設がシステムの外販に挑む背景。
本システムは2023年11月には「カワセミ」としてシステムの外販にも取り組み始めました。なぜ外販に取り組まれるのでしょうか?
小島さま:建設現場での「安全管理」は業界の問題であると捉えています。今回開発した「AI安全管理システム」カワセミでは、危険予知を行い事故が起きることを未然に防ぐことはもちろん、作業員が安全な行動をしていることをプラス評価として利用することにも使えると考えています。そうして「安全な行動を取ること」を価値として建設業界全体に文化として広めていくことを目指しています。
カワセミとして外販をはじめた後反響はいかがですか?
大山さま:販売についてのリリースを出してから、お客様が自ら記事を持ってきて、自分たちの現場にも導入してほしいといったお声もいただいています。他にも様々な企業様と話を進めていく中で、「人物だけでなくこういったことも検知できないか」といったご相談も多くいただくようになりました。カワセミの強みとして単に外の技術を活かしてシステムを構築したわけではなく、Lightblueさんがアルゴリズムから開発してくれているので、フレキシビリティが非常に高い。単に人やモノとの接触というだけではなく様々な応用が利く可能性も感じています。
「AI安全管理システム」としてのカワセミの現状について教えてください。
小島さま:まだまだシステムとしては初期段階であると捉えています。想定されないユースケースも多く出るだろうし、まずはいろんな現場で使ってもらって体制を整えていく必要があると考えています。そういう意味でこれからがスタートだと私自身は考えています。
AIプロジェクトの成功の鍵は「課題設定」と「期待値設定」にあり。
最後に、AIプロジェクトを進めるうえでの大事だと感じたポイントを教えてください。
大山さま:課題設定の段階が一番大事だと思っています。技術オリエンテッドになってしまうと、現場での効果があやふやなまま、AI実装後に結局「使えないじゃないか」みたいなことになってしまいます。そうではなくて、AIを用いて実装したときにどのぐらいの効果が見込めるのかあらかじめ想定をし、ステークホルダーで適宜見直しするというプロセスがすごく大事だと思います。初期の段階でまず何から取り組み、どのぐらい目標値にするのか、その方法はどれを選択するのか。こういったところをまずしっかり作っておくことが重要だと考えています。
小島さま:AIへの期待値を上げすぎない、ということも意識しています。100%の水準で物事を判断させることにAIを使うということは現時点ではできません。リーダーもメンバーも期待値を上げすぎないというか、「AIとは何か」ということを理解した上で、プロジェクトを推進することが大切かもしれません。
2024年3月に清水建設さまに登壇いただき、建設業におけるAI活用の必要性と取り組み事例についてウェビナーを開催しました!建設業界において2024年問題への対応も見据えて現場でのAI活用が求められているなか、現場作業の自動化から安全管理まで、清水建設さまがAIを用いていかにして企業変革に取り組んでいくのかを探求します。
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